届屋ぎんかの怪異譚
「……うん」
『前々から、あの子の誕生日にはあの子の好きなものをたんと食べさせてやる約束だったから、
わたしが妹のところへ行こうとするのに、あの子が怒っちゃってね。
結局、そのまま喧嘩別れだよ』
「そう」銀花は立ち止まって、もう輪郭のはっきりしない女の顔をまっすぐに見つめた。
息子と喧嘩をして隣村へ旅立ったこの女は、その途上で野盗に襲われて死んだのだ。
『こんなことになるってわかってたなら、妹にどう思われようと、あの子のそばにいてやったのにね』
深い深い後悔のにじんだ声に、銀花は小さく胸の痛むのを感じた。