届屋ぎんかの怪異譚



そして、「あ、」と声を上げると、そのまま硬直した。



すこし前を行く朔が歩みを止めて、振り返る。


「どうした」と問う声に反応して、銀花は朔の目を見たが、すぐに目をそらした。



「なんでもない。……あたし、用事を思い出しちゃった。朔、先帰ってて」



唐突なその言葉は、明らかに不自然だった。

朔は訝るように眉根を寄せる。



「こんな時間に、か? 用事があるなら付き合う。もうじき暗くなるのに、女一人残して帰れるか」


「あ、あたしは大丈夫だから……」



「ろくに護身もできないくせに、何が大丈夫だ。それとも何だ、俺がいたら困る用事なのか。邪魔ならそう言え」



「そ、んなこと……」



そんなことはない、とは言えない。

だが、銀花を想って言っていることがわかる分、邪魔などと言えるわけがない。



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