届屋ぎんかの怪異譚




「……とにかく、朔はついて来ちゃ駄目なの」



朔の視線に耐え切れず、銀花はうつむいてそう言った。


頭上で小さなため息の音がした。

やがて諦めたように、朔はぼそりと言う。



「風伯は呼べるのか」


「……呼べるわ」


「ならいい」



その言葉と共に、うつむいた銀花の視線の先で朔が歩き出すのが見えた。



(せっかく、朔が心配してくれたのに……)



ズキズキと、胸が痛む。

誰かに隠し事をするのは、痛い。


けれど銀花はどうしても、朔にだけは、隠し通さなければならないことがあった。




朔の足音が遠ざかるのが聞こえる。


銀花は深く息を吸って、朔とは反対の方向へ歩き出そうと、した。



――だが。


「おい」



呼ばれて、顔を上げた。

そうして銀花は驚きに目を見開く。



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