届屋ぎんかの怪異譚




銀花に背を向けた朔の、その向こう。

こちらを向いて立っている人影が見えた。



それは、道行く人には見えない。

銀花と朔にしか見えないその人影は、ほとんど沈みかけた夕陽を背にしているのに逆光になっていないので、すぐに誰だかわかった。

その透明な体から夕陽が透けて見える。



「……あざみ!」



銀花の家で待っているはずだった彼女が、なぜここにいるのか。

あまりに銀花の帰りが遅いので、様子を見に来たのだろうか。



あざみに駆け寄ろうとして、一歩踏み出す。

すると、あざみはまるで銀花から逃げるように、走り出して次の角へ消えた。



「あざみ!? どうしたの?」



銀花は言って、その後を追いかけた。


「おい、待てよ!」と、後ろから朔が追うが、銀花は止まらない。




< 114 / 304 >

この作品をシェア

pagetop