届屋ぎんかの怪異譚



二人が角を曲がると、あざみは五間(約十メートル)ほど先に立って、銀花の姿を見留めるとまた走り出す。



「ついて来いって言うの……?」



銀花は呟き、困惑しながらもあざみを追いかけた。



次の角を右に曲がり、その次を左に曲がり、麹町界隈に詳しくない二人がどこを走っているのかもわからなくなってきた頃。



「銀花、見つけた!」



少年のような甲高い声が降ってきて、銀花は思わず立ち止まった。


上空を仰ぐと、今まさに銀花の頭上に、真っ白な獣が落ちてくるところだった。



銀花はとっさにその獣を抱きとめる。

この世のものではないそれは、ふわりとして羽のように軽い。



「今様!」



落ちてきた白い狐は、猫目の式である今様だった。



どうしてここへ? と、銀花が尋ねようとすると、そこに一迅の風が吹く。

一瞬の後に現れたのは、予想通り、風伯と猫目だった。


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