届屋ぎんかの怪異譚
日の沈んだばかりの薄暗い空の下、幽霊の女の元へ歩いていく銀花を、朔も猫目も追うことができなかった。
昼でもない、夜でもない、その境の紺藍の中、離れていく細い背中はまるで、この世のものではないようで。
銀花が隣に並ぶと、あざみは微笑みをひとつこぼして、何も言わずに数間先の小さな茶屋を指差した。
その茶屋は、今まさに店を閉めるところだった。
一人の若い娘が看板をしまったりして、忙しく働いている。
とびきり美人と言うわけではないが、ふんわりとした可愛らしい雰囲気の娘だった。
だが、その顔はどこか悲しげで、ときおり手を止めては涙を堪えるような痛ましげな表情を見せた。
『あの方の櫛(くし)、さがみ屋で一等高価なものなんです』
あざみに言われて、銀花は娘の櫛を見た。
だが遠目には黒いだけの櫛に見える。