届屋ぎんかの怪異譚
『華やかなものではないけれど、一流の職人さんが螺鈿や金箔で施した細やかな蒔絵が、それは美しい櫛です。
……わたくしが、婚約のお祝いにいただくはずのものでした』
え、と、小さな声が銀花の喉から漏れる。
その意味がじわじわとわかっていくにつれて、心臓の動悸が激しくなる。
『わたくし、知っていました。保之助さんが本当は、わたくしではなくあの方を好いていたこと。
お得意先へ訪ねるたびに、あの茶屋で一休みするのが毎日の憩いであったこと』
ささやくように言うあざみの声は、どこまでも静かで穏やかだ。
それはきっと、ずっと前から知っていたことなのだろう。
そして、諦めとともに受け入れようと思っていたのだろう。
『銀花さま、どうかそのようなお顔をなさらないで』
わたくしは平気ですから、と、あざみは言う。