届屋ぎんかの怪異譚
『くさま屋の子はわたくし一人。跡取りとなる婿が必要でした。
そしてさがみ屋は、くさま屋と結ばれることでくさま屋の着物とともにさがみ屋の小間物をもっと多く売ることが出来るでしょう。
お互いの利のため、親の決めた結婚でしたから、……そういうことも、あるだろうと、きちんと覚悟は決めていましたの』
あざみが語るのは、珍しくもなんともない話だ。
――だが、ひどく寂しそうな顔をしたあざみの、その思いを、ありふれた平凡な不幸だ、などと。
言い捨てることが、どれほど残酷なことか。
『保之助さんは優しくて、誠実な人でした。わたくしを思おうと努力をしてくれました。
――だからせめて、わたくしが死んだ後は、あの方と幸せになってほしいと、伝えたかったのです。
……ごめんなさい、銀花さま』