届屋ぎんかの怪異譚




――――――――――


窓を見上げると、庇の向こうの空は浅縹の色に染まっていた。

少しも眠れていないのに、朝が来てしまった。



「二人とも、びっくりしてたよなぁ」



普段ならもう起きている時刻だが、布団に潜ったまま、銀花は呟く。



そっと目を閉じると、昨夜のことが脳裏に浮かぶ。



「……みつき、おに」



長い長い沈黙の後、呆然としたままうわ言のように言ったのは猫目だった。



「そう。知らないかしら? 数の少ない妖だったから。人とあまり変わらない見た目で、あたしにはないけれど、額にツノが一本生えていてね」



銀花は明るく笑ってみせて、べらべらと話し出した。

何か話していないと、沈黙に耐えられそうになかったのだ。



「満月の光を浴びると、その目が月の色に輝く妖なの。もう十数年前に――」


「滅んでしまった」



銀花の言葉を引き継いだのは、朔だった。



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