届屋ぎんかの怪異譚
「朔、知っていたの?」
「知ってるもなにも……萱村秀栄(しゅうえい)が滅ぼした鬼、だったはずだ」
萱村事件のときの萱村家当主、秀栄。
その男が家名を上げるために滅ぼした鬼の一族が、水月鬼だ。
「そう。萱村に滅ぼされてしまった。残ったのは半妖のあたしだけ。……あ、そうそう、十年前に萱村家を滅ぼした鬼、それから今騒がれている首吊りの鬼。どちらも水月鬼でも、水月鬼の祟りでもないわ」
だって、会ってみたくてさんざん探したのに、水月鬼の霊なんていないんだもの。
とは、言わずにおいた。
同情を誘うようなことは、言いたくない。
「朔、あたしは半分だけ、あなたの大嫌いな妖だったの。――それを知った今、あなたはあたしを斬るかしら」
斬らないだろう、と、わかっていてそんなことを訊く自分に、銀花は呆れて嘆息する。
朔は、きっと斬らない。
――だけどもう、これまで通りに接してはくれないだろう。
朔の答えを待たずに、銀花は小さな声で風伯を呼んだ。