届屋ぎんかの怪異譚
(また、別の土地へ行かなくちゃならないかなあ)
天井の木目をぼんやりと見つめながら、銀花は思う。
幼い頃。
まだ祖母が生きていて、銀花に自分が半妖である自覚がなかった頃。
祖母は銀花を連れて各地を転々としていた。
祖母は満月の日が来る度に銀花を隠そうとしたが、水月鬼の性か、満月の夜は狂おしいほど月が恋しくなった。
月の光の下に立ち瞳を銀に輝かせる銀花を見て、優しくしてくれた大人は銀花を恐れ、化け物と呼んだ。
できた友達は逃げていった。
知り合った旅人は珍しがって銀花を捕らえようとした。
江戸にとどまるようになったのは、祖母の体が悪くなり、銀花も物心が付いて、満月の日には誰とも会ってはいけないということがわかりはじめた頃だった。
それからは誰に見られることもなく、平穏に暮らしてきたのに。
「どこへ、行こうか……」
行くところなど、いていいところなど、あるのだろうか。