届屋ぎんかの怪異譚
「今、すこしだけ時間あるか」
「……え」
「話したいことがある」
「……え、あの、でも……」
「店なら、たしか今日は猫目が店番するはずじゃなかったか」
「そう、だけど……」
来てくれるわけがない、と、言いかけた銀花だったが。
「あれ? 今日店番しなくてよかったの? というか、まだ開けないの?」
耳慣れた声がして、顔を上げた。
不思議そうな顔をして歩いてくるのは、猫目だ。
「あれ? 銀花、寝起き? 珍しいねぇ、銀花が寝坊なんて。あ、よく見たら隈できてるし」
夜更かしは良くないよー、と言う猫目は、まったくいつも通りで。
「……どうしてなの……」
かすれた声で言う銀花に、猫目は何が? と問うように首を傾げる。
「どうして、いつも通りなの? あたし、半妖なのに……」
「阿呆かおまえは」
銀花の言葉を遮って、朔は心底呆れた顔で言った。