届屋ぎんかの怪異譚
「わかった」と、朔は頷いた。
そして、ふわりと、その目元を和ませて、微笑む。
朔が笑った。
そのことに驚いて、銀花はしばらく息をするのを忘れた。
それは、薄日が差すような小さな笑みだったけれど、朔が初めて、笑みを見せてくれた。
ドクン、と、心臓が一度、大きくはねた。
「そうと決まったら、おまえも手伝え。今朝、首吊り未遂が出たと知らせがあった」
「未遂?」
「首を吊ろうとしたところを、家族が見つけて止めたらしい。明日、詳しい話を聞きに行く。明日の店番は、もう猫目に頼んである」
「……用意がいいのね」
「明日の朝に迎えに行く。今日みたいに寝坊すんなよ」
「わかったわ」
銀花は笑って頷く。
その笑顔はもう、いつもの太陽のような明るい笑みに戻っていた。