届屋ぎんかの怪異譚
「それが二日前、晩飯ができたから呼びに行ったら、弥吉がうつろな目をして縄に自分の首を引っ掛けるところだった」
首吊り未遂の男は名を弥吉という。
快活で人当たりのいい男で、駕籠者の仕事仲間にも一目置かれていたらしい。
首をくくる理由がない。
妖に憑かれたんだ、と、弥吉の父は言った。
弥吉は一度目の首吊りを止めて以来ずっと寝込んでいて、たまに起き出してはまた首をくくろうとするらしく、その度に弥吉の肩に鬼のような影が見えるという。
憑いている妖が姿を現すのであれば、退治することができるかもしれない。
銀花と朔は、弥吉が再び首を吊ろうとするその瞬間を待っていた。
――しかし。
早朝から待ち続けて、もう真昼になる。
薄暗い部屋でじっと眠る男を見守り続けて、銀花も朔も疲弊していた。