届屋ぎんかの怪異譚
「はなして。……死なせて」
腕の中で銀花がもがいた。
全力を込めて朔を押しのけようとするが、鬼に憑かれているとはいえ所詮は銀花の体。
力では朔に勝てない。
「はなして」
「やなこった」
暴れる銀花を、さらに強く抱きしめた。
放せば相手が死ぬとわかって、誰が放すものか。
「覚えてろよ、くそ鬼」
右腕で強く銀花を抱きしめたまま、朔は左手で懐をまさぐり、黒い巾着袋を取り出した。
――銀花からもらった、妖からの干渉を抑える薬だ。
「こいつにそんな言葉を吐かせたこと、後悔させてやる」
朔は退治屋だが、憑き物を引き離す術は持たない。
退治屋には二種類――陰陽術や道術の使い手と、妖刀などの武器で直接妖を殺す者と。
猫目は前者だが、朔は後者だ。
だから、朔の今できる最善が、この薬だった。