届屋ぎんかの怪異譚
憑き物の場合はどの程度効くのかはわからないが、今はこれを使うしかない。
銀花は暴れていて、素直に薬を飲むとは思えない。
そもそもこの場には水もない。
――なら、仕方ない。
「許せよ」と、一つつぶやきながら、朔は巾着から取り出した黒茶色の丸薬を口に含んだ。
丸薬を奥歯で噛み砕くと、独特の苦味が口の中に広がる。
その一瞬の間に朔は銀花を引き寄せると、死なせてと繰り返す唇を、己の唇で塞いだ。
突然口の中に移された丸薬を反射で飲み込んで、暴れていた銀花は動きを止めた。
朔を押しのけようとしていた腕の力がゆるむ。
そっと唇を離すと、呆然としたような銀花と目が合った。
ぽかんと開かれた唇が震え、閉じて、また開く。