届屋ぎんかの怪異譚



「さ、く……今のは……」



それだけ言って、銀花は言葉を継げなくなってしまう。


その頬がみるみるうちに真っ赤になっていくのを見て、朔はとっさに目を逸らした。



「正気に戻ったみたいだな」



銀花の顔を見ることができずに横を向いたまま、朔は言う。


すると、銀花は「え、あ、えっと、」と言葉を詰まらせて、やっとのことで「……うん」と頷いた。



「鬼に乗っ取られていた間の記憶はあるか」



「うん、いろいろ面倒をかけたみたいで、ごめんね」



「いや……一応鬼からの干渉は抑えたが、まだおまえに憑いたままだ。一度戻って、猫目にでも祓ってもらおう」



「そうね。……あ、そうだ、朔」



朔の言葉にぎこちない動作で頷いていた銀花だが、ふいに思い出したように言って、顔を上げた。



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