届屋ぎんかの怪異譚
「弥吉さんは、どうなったの?」
「鬼はおまえに憑いたわけだし、もう心配ないはずだが、一応様子を見に行こうか」
そう言って歩き出そうとした二人は、ずっと遠くから様子を見ていた弥吉の父母と目が合って、再び顔を赤らめる。
互いにそれに気づかないふりをして、弥吉の部屋へ戻ると。
「あれ、親父かお袋のお客人か?」
そこには、起き上がって身支度をしている弥吉がいた。
弥吉は銀花と朔を見て、きょとんとした顔を父母に向ける。
そうしなしおがらも帯を締める手は休めない。
「すまねぇが、俺ぁ仕事にいかねぇと。たいしたもてなしもできねぇで、悪いね。あとはお袋に任せた」
白い歯を見せて爽やかな笑みを二人に向け、弥吉は慌ただしく部屋を出て行った。