届屋ぎんかの怪異譚
(なんだか、いつもの朔じゃないみたい)
やかましい心臓の音を耳の奥に聞きながら、銀花は思った。
「あんなこと」があったから、そう思うだけだろうか。
心臓がうるさい。
朔と目を合わせられない。
さっきのことを思い出すと、顔が熱い。
自分はこれだけ意識してしまっているのに朔はなんとも思っていないようなのが癪で、銀花はすこし怒ったように、「さ、帰りましょ」と、朔の着物の袖を引いた。
弥吉の父からいくらかの謝礼をもらって家を出る。
と、そこに知った顔を見つけて、二人は同時に声をあげた。
「あ」
「風伯!」
珍しく難しい顔をした風伯が、宙に浮いていた。
「どうしたの? 怖い顔して」
言いながら銀花が駆け寄ると、風伯はふわふわと降りてきて、
「二人を待ってたんだ」
と答える。