届屋ぎんかの怪異譚
それを聞いて、銀花は眉をひそめた。
嫌な予感が胸をかすめる。
「何かあったの?」
不安を顔にはり付けて銀花が尋ねると。
「……糺が、噂の鬼に憑かれた」
泣きそうな声で、風伯が答えた。
厳しい顔をした朔と、青ざめた銀花が顔を見合わせる。
「そんな、……でも、鬼はまだあたしに憑いているはずなのに」
「一匹だけじゃなかったか」
その朔の言葉に、二人は揃って難しい顔で黙り込んだ。
江戸を騒がす首吊りの鬼は複数。
どれだけたくさんいるのかも検討がつかず、なぜ江戸にそれほどたくさん出現したのかも不明。
それぞれが単独で動いているのか、何匹かの首吊りの鬼が行動を共にするか、何者かが使役しているのかも不明。
思っていたよりも厄介な事態だ。