届屋ぎんかの怪異譚
「この妖術は、あんたが?」
朔が問うと、かずらはにっこり笑って頷いた。
「ええ。わたくし、これでも妖狐でございますから。人を化かすのは得意です」
三人が完全に地下へ入ってしまうと、はずれた床板がふわふわと漂ってきて、地下への入り口を塞いだ。
地下への階段が真っ暗闇に包まれたその瞬間、ぽっと音を立てて、かずらの人差し指の先に青白い鬼火が灯る。
その鬼火にかずらが息を吹きかけると、鬼火は十ほどに分かれて散り散りになり、銀花と朔の足元を照らした。
三人が進めば鬼火も進み、止まれば鬼火も止まる。
その様を見ながら階段をずっと下りていく。
やがて階段が途切れ、地面がまっすぐになった。
それでもまだ続く通路を、三人は黙って進み続ける。
いったいどれだけ歩いただろうか。
延々と続く狭く暗い地下の通路に、朔も銀花も嫌気がさしてきた頃。
ふいに、眼前に途方もなく続いていた闇が途切れた。
「行き止まり……?」
三人の目の前には、通路をふさぐ岩壁がそびえていた。
戸惑う朔の隣で、銀花は「やっと着いたわ」と、大きく息を吐く。