届屋ぎんかの怪異譚
往路では、銀花が連れた女の霊が自分の村を見つけられるように、
ゆっくりと空を進んできたが、帰りはその必要がない。
風伯としては一刻も早く銀花を江戸に帰してやりたかった。
銀花は「さー、帰ろ帰ろ! 」と明るく言って、元気そうに振舞ってはいるが、
それでも真っ白な顔で震えを隠しきれていない。
それも当前のこと。
この日、銀花は風伯を伴って江戸からすこし離れた街へ薬の仕入れに行き、
その先で女の霊に会って急遽奥州の村まで来ることになったのだ。
当然、そのための防寒などしていなかった。
江戸をうろつくのと同じ格好で奥州の雪の中に長い時間いて、銀花の体は冷え切っていた。