届屋ぎんかの怪異譚



「朔殿、どうぞ、このままお進みください」



妖艶な顔にいたずらな笑みを浮かべて、かずらは言うと、そのまま歩みを止めずに前へ進んでいく。



と、突然、かずらの姿が壁にとけて消えた。――ように、朔には見えた。



 かずらの言葉通りにそのまま進むと、そのまま壁にぶつかるか、というときに、体にまとわりつく空気がふっと変わったかのような感覚に包まれ、次の瞬間には目の前の景色が変わっていた。



朔はその光景に唖然とした。


広い――大番所の倍はあろうかというほど広い部屋の中に三人はいた。


そして目の前には、その部屋を真っ二つに断ち切るかのように天井から床に降りた、太く頑丈そうな木の格子。



格子の向こうの部屋は三人の立つ木の床よりも一段高く、座敷になっていた。


牢の中とは思えないほど高級そうな調度が揃っていて、その座敷牢の真ん中に、鮮やかな朱の着物を身にまとった、十二、三歳ほどの少女が立っていた。



白すぎるほどに白い陶器のような肌。


黒すぎるほどに黒い絹のような髪。


黒曜石のようにつややかに光る瞳は、まっすぐに銀花と朔を見ている。



この世のものと思えない、妖しい風貌の少女は、着物と同じ色の薄い唇を開くと。


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