届屋ぎんかの怪異譚




「仮にも退治屋をしていて知らない者はいないだろうな。珍しいと聞いていたから、まさかお目にかかれるとは思わなかったが」



さとり。

人の心を見透かす妖。

人の心を次々言い当て、呆然とした人を食らうという。



噂は聞いていたが、まさか美しい少女の姿をしているとは思わなかった。


伝承では猿のような姿をしているとあったのに。



朔がそう考えたこともすべて見透かしているのだろう。


萩はふふ、と笑うと、「伝承は間違っておらんよ」と言った。



「わらわはさとりであってさとりでない。歴とした人の子であって、さとりよりもおぞましい化け物じゃ」



「……どういうことだ」



「ひとつ、昔話をしてやろうか。……昔々、腹に子を宿した女がいた」



まさか、銀花と同じ半妖だろうか。


そんなことを思いながら、黙って聞いていると。



「女は貧しく、毎日毎日食うものに困っていた。そんな折、飢饉が起きた。寛永の飢饉じゃ。

女は飢え、瘦せおとろえ、しかし子のために道端の草を食ろうてでも生きようとした。

女は山で出会ったさとりを、ただの猿と思うて殺し、食らった。だが女は結局その後食いつなぐことができず、飢えて死んだ」



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