届屋ぎんかの怪異譚
「勝手なこと言うな。俺だって俺の都合があるし、あいつが……俺にいてほしいと望んでいるとも限らないだろ」
それとも、そう望んでいるのだろうか。
さとりの妖力でそれを感じ取ったから、萩は朔に託したのだろうか。
ふと浮かんだそんな考えを、朔は心中から追い払って、「でも、」と続けた。
「……努力はする」
ぼそ、とそう言って、朔は振り返った。
朔がついて来ていないことに気づいた銀花が、不思議そうな顔で二人を見ていた。
「朔、何してるのー? 将軍様来ちゃうとまずいよ」
「今行く」
困り顔の銀花にそう返して、最後に一度、萩の目を見て、朔は踵を返す。
並んで歩く二人の背を見つめながら、萩はそっと、息を吐く。
「二人ともまだ、迷いがあるのう……」
朔の胸には果たすべき目的が。
銀花の胸にはもう一つの隠し事が。
誰かと寄り添うことにまだ、迷いがある。
重いそれらを抱えたまま立ち尽くしている心が、萩には見える。
そういうものは、言葉で伝えてもどうにもならないことを、萩は知っている。
「神などというものは、信じておらぬが……」
どうか、二人が光の方へ進めるよう。
萩は小さな祈りをそっと、心に乗せた。