届屋ぎんかの怪異譚



――――――――――


――……助けて。


深い、深い闇の底で、昏い目をした彼女が言った。



――辛いの。苦しいの。誰も、助けてくれないの。


どうしたの? なにがあったの?


手を差し伸べて問いかけても、彼女は応えない。



――どうしてわたしが死ななくちゃならなかったの。


幸せになれるはずだった。


あの子と、あのひとと、ずっと笑い合って生きていけるはずだった。


どうしてそれが許されなかったの。


どうして。どうして。



消えない苦しみを抱えて救われないまま、ずっと闇にとらわれている。


死ぬ間近の光景を、この意識はずっと繰り返している。



――死した後も、ずっと。



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