届屋ぎんかの怪異譚
迫る追手。
松明の炎。
走って走って、走りすぎて、もう動かなくなった、己の足。
月夜に光る水面。
手を引くあのひとと、飛び込んだ水の冷たさ。
引き離されたあのひとの手と、わたしを捕らえる兵たちの手。
牢の床の湿り気と、錆びた小窓の鉄格子。
着物の帯が首に食い込む痛み。
止まる息。
最後に浮かんだあのひとの笑顔と、生まれたばかりのあの子の温もり。
ごめんね、と、音にならない声で呟いた、最期。
深く、深く、意識が落ちていく。
昏い暗い、光の届かないところへ。
深く、深く……――。
落ちていく感覚とともに、目が覚めた。