届屋ぎんかの怪異譚



一晩寝ていないにしてはふらふらしすぎたその足取りは、なにも寝不足だけが原因じゃない。



いつもは首に巻き付いている二藍や肩に乗っている今様の姿は、今はない。


二匹は今、江戸の東西それぞれ半分ずつを包むほど大きな結界を張り、車の妖の気配を探っているのだ。


風伯も伝令役として二匹についていった。



式というものは、決して無償で力を貸してくれるものではなく、主の力を吸うものだ。


主にとっては戦闘において妖の力を借りられるという利があり、

妖にとっては主の生命力を頂戴して己の妖力の足しにできる、という利がある。


互いに利があるからこそ、人は妖を使役することができる。



今、今様と二藍は莫大な妖力を使って車の妖を探している。


猫目の体力を慮っているだろうが、そろそろ限界のようだ。



眠る糺と猫目を衝立で隠して、銀花は営業中はいつもそうしているように、在庫の少ない薬の調合をはじめる。



しばらくそうして黙っていた銀花は、ふと思い出したように顔を上げて、

銀花の手元を興味深そうに見ていた朔に、「朔は?」と尋ねた。


< 174 / 304 >

この作品をシェア

pagetop