届屋ぎんかの怪異譚
3
3
――――――――――
銀花と風伯が江戸の町に着いたのは、もう人々の寝静まった夜中だった。
さすがに人目の多い江戸の中まで、風伯の風に乗って入るわけにはいかない。
江戸の町の門から半里(約二キロメートル)ほど離れたところに二人は降り立った。
ここからは歩きだ。
手荷物がほとんどないので、歩きでも半里なら楽なものだ。
銀花が奥州の村で届屋の仕事をこなしている間に、
仕入れておいた薬は風伯が江戸の銀花の家に置いていったのだ。
銀花は届屋のほかに、祖母から引き継いだ小さな薬屋を営んでいる。
銀花自身は届屋を本業だと言い張っているが、届屋の仕事ではたいてい礼金を受け取らないので、
生計はおもに薬屋の仕事で立てている。
薬屋を切盛りするのは銀花一人だ。
薬屋の儲けでは、銀花一人が生きていくには充分だが、奉公を雇う余裕はない。
今夜中に仕入れた薬を整理して、明日も朝早くに起きなければならない。
疲れてはいたが、銀花の歩みは速かった。