届屋ぎんかの怪異譚
頭を殴られたような、激しい浮遊感。
足の裏から、地面の感触が消えた。
「今、二藍から念が送られてきた。急いだ方が良さそうだ。
速さを上げるから、すこし荒っぽくなるよ。舌を噛まないよう気をつけて!」
風伯の声が激しい風の音にまぎれながらもかすかに届き、銀花はぎゅっと目をつむった。
一瞬のことだった。
大きな力に全身を振り回されるような――それこそ竜巻にでも巻き込まれたような感覚。
それが止むと、穏やかな風が全身を撫でる感覚に包まれ、銀花は目を開けた。
着いたのは、どこかの山の中だった。
「ここは?」
銀花が問うと、風伯は「高尾山」とだけ答える。
江戸の西の果て。高尾山。――ここに、術師が、いるかもしれない。
道標もなにもない山の中を、風伯の風に乗って静かに進んでいく。
その行く先から、風が吹いた。風伯のものではない風が。
それに乗って鼻の奥に届く、かすかなにおい。
「……腐敗、臭…………?」