届屋ぎんかの怪異譚
立ち上がって、もう一度その山に目を遣る。
よくよく見ればわかる。全員、首を何かで締めた跡があった。
――それは、縊鬼によって死んだ江戸の人々の遺体だった。
「どうして、こんな……」
なぜ、こんなところに無造作に積まれて放置されているのか。
長いこと捨て置かれたのか、冬とはいえ、下の方の死体はもう腐っている。
腐敗臭の正体はこれだ。
「全員、眼がくりぬかれてる」
いつもよりも硬い声で、そう言ったのは朔だ。
「眼……?」
「何に使うのかは知らねぇが、術師の目的は眼のようだな。人間の眼を集めるために、大量の縊鬼を使い朧車を使役して、死体を集めた」
「そうだよ。大正解」
一瞬の、沈黙。
三人が、そろって顔を見合わせた。
突然聞こえた、知らない声に誰もが戸惑いを浮かべて。
それから同時に顔を上げて、その声の主を探した。
声の主は、死体の山の頂上で、むくりと起き上がって、三人を見た。
若い男だった。
おそらく朔と同じか、それよりも年若い男。
腰まである髪は結わずに、伸ばしっぱなしにしている。
どこか甘ったるい印象があるのは、そのたれ目がちの顔立ちのせいか。