届屋ぎんかの怪異譚



立ち上がって、もう一度その山に目を遣る。


よくよく見ればわかる。全員、首を何かで締めた跡があった。


――それは、縊鬼によって死んだ江戸の人々の遺体だった。



「どうして、こんな……」


なぜ、こんなところに無造作に積まれて放置されているのか。


長いこと捨て置かれたのか、冬とはいえ、下の方の死体はもう腐っている。

腐敗臭の正体はこれだ。



「全員、眼がくりぬかれてる」



いつもよりも硬い声で、そう言ったのは朔だ。



「眼……?」



「何に使うのかは知らねぇが、術師の目的は眼のようだな。人間の眼を集めるために、大量の縊鬼を使い朧車を使役して、死体を集めた」



「そうだよ。大正解」



一瞬の、沈黙。



三人が、そろって顔を見合わせた。


突然聞こえた、知らない声に誰もが戸惑いを浮かべて。


それから同時に顔を上げて、その声の主を探した。



声の主は、死体の山の頂上で、むくりと起き上がって、三人を見た。



若い男だった。


おそらく朔と同じか、それよりも年若い男。

腰まである髪は結わずに、伸ばしっぱなしにしている。

どこか甘ったるい印象があるのは、そのたれ目がちの顔立ちのせいか。



< 182 / 304 >

この作品をシェア

pagetop