届屋ぎんかの怪異譚



術師。

首吊り事件の犯人。


探していた当人を目の前にして、銀花はその、若い男を睨みつけた。



そうして一拍遅れて気付く。猫目と、朔の異変に。

――二人とも、呆然として術師を見つめていた。



どうしたの。そう声をかけようとしたとき、朔が動いた。



ゆっくりとした動作で腰に手を伸ばし、刀を抜いた。


二振り帯びた、内の一振り。

普段は使わぬようにしているはずのその刀。



久々に見る、青い焔が視界を灼いた。



「よぉ。やっと会えたな、晦(かい)」



低い、低い、そして冷たい声。


銀花が今まで聞いたこともないような声で、朔が言った。



「降りてこいよ」



朔の言葉に、晦と呼ばれた男は死体の上で立ち上がって、大きなあくびをひとつこぼす。


そして、死体の山をひょいひょいと軽やかに降りてきて、足音ひとつ立てずに朔のすぐ目の前まで来ると。



「本当に、久しぶりだね。久々に兄弟喧嘩でもしようか。――兄上」



そう言って、ニッと笑った。



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