届屋ぎんかの怪異譚



「あの男、晦は……朔の、弟。十年前の事件以来行方不明の、萱村の次男だ」



兄上、と。

晦が朔を呼んだ声が脳裏に蘇る。


術師。朔の、弟だという、その男。


――血を分けた弟だと、言うのなら。



「……どうして、闘ってるの」



銀花の目が追う先で、朔はとめどなく繰り出される斬撃を、まるで未来が見えるのかのように確実に躱して、

不意打ちの足払いすら軽く跳んで避け、その勢いで晦の腹に蹴りを入れた。



しかし晦の反応も早く、蹴られて吹っ飛ばされたにもかかわらずそのまま地に右手をついて、ふわりと宙返りをすると地を蹴って朔へ突進する。



とっさに後ろへ引いた朔だが、背後に立つ樹に阻まれた。


すばやく刀をかざして晦の斬撃を受け止めるが、その瞬間、晦が左手を振りかぶった。


懐にでも隠し持っていたのか、その軌道に光る、刃。



銀花が、息をのむ。

その音がやけに大きく聞こえた。



「二藍。銀花をお願い」



猫目の言葉の、直後。



左手に握った短刀で、晦は思いきり、朔の右肩を刺した。



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