届屋ぎんかの怪異譚
「朔……!!」
響いた悲鳴は銀花のもの。
思わず駆け寄ろうとして、けれど朔が刀を左手に持ち替えたのが見えて、銀花はその足を止めた。
一閃。
青白い光が尾を引いて線を作る。
利き手とは違う手で扱う刃は晦に避けられてしまったが、刀身を覆う蒼炎が晦の頬に触れた。
痛みに顔を歪めて、晦が跳び退く。
肩に刺さった短刀を引き抜いて、朔が立ち上がった。
晦を睨みながら朔の手が懐に伸び、小さな黒の巾着袋。
妖刀の影響でふらつく足を気力で立たせ、丸薬をひとつ、口の中に放り込む。
と、同時に。
朔は地を蹴って間合いを詰めると、蒼炎の刀を振りかぶった。
とっさに刀でそれを受けて防ぐが、晦の顔にそれまでの余裕はない。
繰り出される朔の斬撃をすべて刀で受けながら、しかし晦は押されていた。
じりじりと後退しながら、晦は引きつった笑みを頬に貼り付けた。
「情けないね、兄上。そんな薬に頼ってさぁ。もともと兄上の妖力はあんまりないんだし、無理するなよ」
「黙れ妖怪! 俺を兄と呼ぶな!」