届屋ぎんかの怪異譚
風伯と談笑しながら、しかし急ぎ足で江戸を目指し、
やがて江戸の町へ入る門が見え始めた頃。
ガチ、と鈍い音が聞こえた気がして、銀花は足を止めた。
ガチガチ、ガチガチ、と、何か固く軽いものどうしがぶつかり合うような音。
その音は次第に大きくなる。
――銀花に、近づいてきているのだ。ゆっくりと、背後から。
おそるおそる振り返った銀花が見たのは――。
「……がしゃどくろ!」
銀花の悲鳴と同時に、風伯が腕を振り上げた。
とたん、激しい突風が吹いて銀花の体を持ち上げる。
その次の瞬間、先ほどまで銀花のいた地面に向かって、
巨大な白骨の手がものすごい勢いで振り下ろされた。
風伯の風に乗って空中でそれを見ていた銀花は戦慄した。もしあの場に立っていたら――。
ゆうに三丈(約九メートル)はありそうな巨大な骸骨は、
標的を取り逃がしたことに気がつき、軋んだ音を立てて首を巡らせる。