届屋ぎんかの怪異譚
その申し出に、玉響は驚いたように目を見張ったが、すぐにその目を細めてうれしそうに笑った。
どこか少年を思わせる、あけっぴろげな笑みだった。
「いいのかい? それならお言葉に甘えて、お邪魔するよ」
じゃあ、帰ろうか。
猫目がそう言って歩きだす。
その右の肩に今様が飛び乗り、続けて左の肩に二藍が乗った。
その後に玉響が続き、それから歩きだそうとした朔の袖を、銀花は控えめにつかんで引き止めた。
「朔、ねぇ、これだけ教えて」
聞いてはいけない。
詳しいことなど、なにも、聞いてはいけない気がしていた。
けれどこれだけは、朔の口から聞きたい。
「萱村のお屋敷には、行くの?」
立ち止まった朔の背中はなにも言わないまま、まるで何かに耐えているように見えた。
「……さあな」
待って、じっと待ってやっと帰ってきたのは、そんな答えだった。
――そんな答えしか、もらえなかった。
ほんのすこしの沈黙の後。
そっか、と、無理やりに明るい声を作って言ったきり、銀花はもう何も言わなかった。
小走りで前を行く猫目と玉響に追いつくと、いつもの明るい笑顔で二藍とじゃれあいはじめる。
どこまでもいつも通りに。
――けれど絶対に、ふり返ってすこし離れてついてくる朔の顔を見ようとはしなかった。