届屋ぎんかの怪異譚
娘は着物の裾をパタパタとはたくと、ずり落ちそうな風呂敷包みを背負いなおした。
そして宙を仰いでにっこり微笑み、
「ありがとう、風伯(ふうはく)」
と言った。
常人の目には、娘が何もない宙に微笑み話しかけたように映っただろう。
だが娘の目には、そこに十二、三ほどの少年が見えていた。
みづら頭に水干姿の、愛嬌のある少年だ。
少年は言うまでもなく、人間ではない。
彼は風伯と呼ばれる妖の類で、娘の友であり、娘の仕事を手伝ってくれる存在でもある。
風伯の仕事は主に、風を自在に操り、その風に娘を乗せて送り迎えをすることだ。
風伯は娘の礼に元気よく頷くと、ふわりと空高くへ舞い上がった。
風に乗って空を漂い、また娘が呼べば文字通り飛んでくるのだ。