届屋ぎんかの怪異譚




やがて虚ろな眼窩が銀花を捉えたとき、

表情のないはずの骸骨の顔が一瞬笑ったように見えて、

銀花は背筋の凍るのを感じた。



がしゃどくろは埋葬して弔われることのなかった骸(むくろ)の怨念の集まり。

生きるものすべてを怨み憎み、潰して食べてしまうという。



紫炎を纏った髑髏(どくろ)の手が、銀花を叩き潰そうと振り上げられる。



「……銀花、危ない!」



風伯が叫ぶと同時に、銀花とがしゃどくろの間に竜巻が巻き起こった。



突然の邪魔者にがしゃどくろは怯えるでもなく、ガチガチと歯を鳴らしながら闇の宿る眼窩を風伯に向ける。


そして、蚊でも払うように手を振って、風伯を地に叩き落とした。



「風伯……!!」



銀花は蒼白になって風伯の名を呼ぶ。だが、すぐに自分の身に迫る危機に気がついて、銀花の顔はいっそう青ざめた。


宙に浮く己の体を支える風が止んだのを感じて、恐怖に全身の肌が粟立った。



――落ちる……!





< 20 / 304 >

この作品をシェア

pagetop