届屋ぎんかの怪異譚
やがて虚ろな眼窩が銀花を捉えたとき、
表情のないはずの骸骨の顔が一瞬笑ったように見えて、
銀花は背筋の凍るのを感じた。
がしゃどくろは埋葬して弔われることのなかった骸(むくろ)の怨念の集まり。
生きるものすべてを怨み憎み、潰して食べてしまうという。
紫炎を纏った髑髏(どくろ)の手が、銀花を叩き潰そうと振り上げられる。
「……銀花、危ない!」
風伯が叫ぶと同時に、銀花とがしゃどくろの間に竜巻が巻き起こった。
突然の邪魔者にがしゃどくろは怯えるでもなく、ガチガチと歯を鳴らしながら闇の宿る眼窩を風伯に向ける。
そして、蚊でも払うように手を振って、風伯を地に叩き落とした。
「風伯……!!」
銀花は蒼白になって風伯の名を呼ぶ。だが、すぐに自分の身に迫る危機に気がついて、銀花の顔はいっそう青ざめた。
宙に浮く己の体を支える風が止んだのを感じて、恐怖に全身の肌が粟立った。
――落ちる……!