届屋ぎんかの怪異譚



銀花の答えなど尋ねなくてもわかるはずなのに、それでも尋ねるのは何故なのか。


そんな疑問を抱いたことすらも見透かされているのだろう。

だから銀花は、心の内で萩に語りかけた。



――あなたは望んでいないのでしょうけど、あたしは、それでも知りたいわ。



萩は小さく頷くと、諦めの色を浮かべて笑った。


そして、ゆっくりと右手を持ち上げ、銀花に手をかざした。



何が起きたのかもわからぬうちに、周囲の景色が一瞬で変わった。


夢、と萩は言ったが、眠った覚えすらないまま、気づけば銀花はどこかの森の中にいた。



(ここは……)



どこだろう、と思っている間にも、視界は動く。


歩いていないのに景色は変わり、銀花は森の中を進んでいく。


何故、と思ってすぐに、萩が言っていたことを思い出した。



――一度見た人の心、人の記憶を、夢としてそっくりそのまま他の者に見せることができる。



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