届屋ぎんかの怪異譚



「いつにも増して元気だな、山吹は」


「そうなの! あのね、すっごく素敵な報せがあるのよ!」



言って、山吹は人差し指を立てて、ずい、と月詠に突きつけた。


月詠はすこしのけぞりながら、「な、何?」と尋ねる。



「一つめ! 白檀の子が生まれたんですって! 元気な男の子よ!」



ね、素敵でしょ、と笑う山吹に、月詠も柔らかく微笑んだ。



「それは……めでたいな。名は?」


「晦、というそうよ」



そうか、と月詠は言って、山吹の髪を優しく撫でる。



「山吹の大切な友の、大切な子だ。何事もなく健やかに育つよう、私も祈ろう」


「ありがと、月詠」



こちらに背を向けた山吹がどんな表情をしているのか、銀花からは見えない。


けれど、その声音は暖かく柔らかく、愛しさがにじんでいた。



「それで、二つ目は?」



月詠が問うと、山吹は突然ぱっと月詠から身を離し、うつむいた。



「……山吹?」



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