届屋ぎんかの怪異譚



(それをわかっていて、それでも、喜んでくれたんだ……)



顔を上げ、月詠の顔を見つめ、子供のように大きく頷いた山吹の後ろ姿を見て、銀花は胸が詰まった。



月詠の顔がくしゃりと歪んだ。


今にも泣きだしそうな顔で、けれど心底嬉しそうに笑って、頭一つ背の低い山吹をすっぽりと包みこむように抱きしめる。



「ばかだな、君も。嬉しくないわけがないじゃないか」



震える声で言う月詠に、

「それを言うならあなたもばかだわ。嬉しくないわけがないじゃない」

と返した山吹の声も震えていた。



二人はしばらく黙ったまま抱き合っていた。


慈しむように、愛おしむように。



ずっと二人を見ていたかった。


けれど、そういうわけにもいかなかった。


今の銀花は人の記憶を覗き見しているにすぎない。


記憶の持ち主は用が済んだのか、二人に見つからないようにそっとその場を立ち去る。



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