届屋ぎんかの怪異譚
――駄目だよ、銀花。心を鎮めて。夢が覚めてしまう。
耳元で穏やかな玉響の声がした。
それでも混乱しきった銀花の耳に、その言葉は届かない。
夢が薄れていく。
景色が歪む。
そして、まるでろうそくの火を消したように、目の前が突然に真っ暗になった。
目を開けると、銀花の顔を覗き込んだ玉響と目が合った。
「……覚めたら、どうなるの?」
玉響の隣に座り銀花を見ていた萩に、銀花は起き上がりながら尋ねる。
「また夢は見られる。だがひとの記憶とは曖昧で扱いにくいものでな。続きから見せられるとは限らぬ」
萩は言って、後ろに控えるかずらに目配せした。
かずらは頷き、手早く茶を淹れて持ってくる。
礼を言って湯呑みを受け取り一口すすると、銀花は小さく息を吐いた。
そうするとだんだん動悸が収まり、ようやく銀花は落ち着きを取り戻した。
「続きからじゃなくていいわ。もう一度お願い」