届屋ぎんかの怪異譚
静かに言った銀花に、萩は困ったように笑う。
「そう言うじゃろうと思うておった」
言って、萩は座敷牢の格子のそばまで寄ると、
「銀花はずっと、父母のことを知りたいと思うておったのう。
周りに気を遣わさぬために口には出さずとも、ずっと。
わらわはそんな銀花の心を知っておったが、――できれば銀花には何も知らぬままでいてほしかったのじゃ」
「……どうして?」
「知らぬままでは恋しいが、知れば、もっと恋しくなろう」
なぜ、と問う眼差しが銀花をまっすぐにとらえる。
それなのになぜ、それほどまでに知りたがるのか――と。
さとりである彼女には、なぜなのかなど、すでに分かっているのだろう。
けれど銀花はその答えを、言葉に乗せることにした。
「朔と晦を見て、思ったの。家族って、どんなものなんだろうって」
二人に何があったのかは知らないが、朔は、晦を憎んでいるように見えた。――それなのに。
「あのとき、朔は……辛そうだった。晦に刃を振り下ろそうとしたとき、痛い、って、顔してた。だから」