届屋ぎんかの怪異譚
今、やっとわかった。
「……あたしは、朔に、離れていってほしくないの。
朔が晦を――どんな形であれ〝家族〟を、選ぶことを引き止めるために、あたしはあたし自身の家族を知りたい」
ひどく勝手な理由だ。
そう思って、銀花は苦笑した。
結局のところ、朔が離れてしまうのが怖いのだ。
朔を留めておきたくて仕方なくて、実の弟にだって朔を奪われたくない。
それを今、やっと気がつくなんて。
「――あたし、朔が好きなんだ」
言葉にすれば声が震えた。
なぜだか、涙が出そうになった。
自分自身の言葉が自分でも信じがたくて、なぜだか恐い。
けれど同時に、気づけたことが嬉しくてしかたがない。
「……友の恋路は、応援する他にあるまいよ」
泣き笑いの萩が言って、格子の向こうから、銀花の手を優しく握り返した。
その瞬間、ふっ、と眠気が降りかかってきた。
萩が術をかけたのだと悟るや、銀花はそっと目を閉じる。
――ありがとう、銀花。どうか、朔を止めてやってくれ。
最後に玉響の弱々しい声が聞こえて、銀花は意識を手放した。