届屋ぎんかの怪異譚
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目を覚ますと夜だった。
一拍置いて、目を覚ましたのではなく夢を見ているのだと気がついた。
記憶の主は走っていた。
銀花が一度目を覚ます直前に見ていた屋敷の廊下を走っていた。
周囲は夜だというのに騒がしく、門に近づくにつれて騒々しさは増していく。
角を曲がると、真っ先に篝火の明かりが目に入った。
まるで戦に出るかのように武装した男たちが幾人も立っていて、その真中に、馬にまたがった背の高い男が篝火の炎のすぐそばに見えた。
「秀英様! おやめください!」
馬上の男――秀英に叫んだのは白檀だった。
馬の手綱を持つ秀英の右手をつかんで、必死にすがろうとしている。
何があったのだろう、と、銀花は思い――けれどその答えはすぐにわかった。
「鬼退治など、どうかおやめください! 月詠は悪い妖ではございません!」