届屋ぎんかの怪異譚
心臓を殴られたような衝撃が走った。
――鬼退治、と、白檀は言った。
そして銀花は、鬼退治が成功することをもう知っている。
(これから、父様が殺される)
そんな、と、かすれた声が耳に届く。
銀花ははじめ、それを自分の声だと思って、すぐに違うと気がついた。
その声は、この記憶の持ち主のものだ。
「どうして止めるんだ、白檀。山吹殿が鬼に魅入られているのだぞ!
救ってやるのが友の務めではないか!」
すがる白檀の手を振り払って、秀英が怒鳴る。
「私は、相手が鬼だからといって臆さないぞ。
山吹殿はおまえの友で、私の友だ。私は山吹殿を救いに行く」
「その山吹が、月詠を愛しているのです。わたくしは友の選んだ方が、悪しき妖とは思いません!」
白檀の必死の叫びも虚しく、秀英は郎党を率いて去っていく。
追いすがろうとする白檀はしかし、数人の男たちに止められてしまう。