届屋ぎんかの怪異譚



白檀の目の前で無慈悲に門が閉まった。


家人に促され屋敷に入っていくその途中で、白檀がふいに振り返ってこちらを見た。



懇願するような眼差し。


それを合図にしたかのように、記憶の主は走りだす。


忍のように身軽に木から屋根に飛び乗り、そのまま秀英一行を追って屋根から屋根へ飛び移る。



南へ南へ長いこと走り続け、やがて秀英一行が止まったのは、あの森だった。



「この森の中に水月鬼は隠れている! 探し出して殺した者には褒美を取らせよう!」



秀英が怒鳴ると、郎党の空気が変わった。


殺気。


誰もが顔には出さなくとも、褒美を得るため仲間すらも出し抜こうと、殺気をにじませている。



胸の内で、身を焼くような怒りが荒れ狂っていた。


銀花は奥歯を強く噛み締め、爪が手のひらを裂くほどにきつく拳を握りしめた。


――否、正確には、記憶の主が。



けれど銀花にはもう、それが自分の怒りなのか記憶の主の怒りなのか、わからなくなっていた。



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