届屋ぎんかの怪異譚
月詠もそれに気づいたようで、森の闇に鋭い視線を投げかける。
じっと息を殺していると、遠くからかすかに、けれど確かに、足音と男たちの声、それから馬の蹄の音が聞こえる。
「銀の髪を見たら殺せ! 鬼は皆殺しだ!」
「人間の女とその子供は殺すなよ!」
遠くの怒号に、月詠と銀花の顔がこわばる。
記憶の主は刀の柄に手をかけた。
「お二人とも、どうか急いでお逃げください。ここは俺が食い止めますから、早く!」
そう言って刀を抜こうとする手に、銀花はそっと手を添える。
驚いて記憶の主が顔を上げると、静かな、けれど毅然としたまっすぐな瞳と目が合った。
「だめよ。あなた、見たところ十もいかないような子供でしょう。あんなに大勢を相手にして叶うはずがないわ」
「いや、俺は……」
「代わりにあなたに、頼みたいことがあるの。いいかしら?」
こんなときでも柔らかく笑む山吹の言葉に、少年がつい、頷くと。
「この子を、玉響に預けてほしい。玉響の居場所は、白檀が知っているわ。
ほとぼりが冷めるまで、秀英様の手の者から守ってほしいと伝えて。それからは母さまに預けてくれてかまわないから、とも」