届屋ぎんかの怪異譚



向かってくる男たちを視界に捉え、月詠は山吹の手を取った。



「走れ!」



泉から次々に水月鬼が現れ、月詠と山吹を守るように郎党たちの前に立ちふさがる。


だが、郎党たちの数が圧倒的に多い。


泉を走る二人に、泉を取り囲んでいた郎党たちが近づいていく。



(なぜ泉の下に隠れないの……?)



銀花の疑問はすぐに晴れた。

よく見ると、月詠の肩の傷口から青白い光が煙のようになって流れ出ている。


空間をひとつ作る術というものは、それなりに大きな妖力と精神力が必要になる。


妖気が漏れて安定していない状態では、泉の下に人の立ち入れない空間を作り維持するのは困難なのだ。



少年は腰に差した太刀を抜き、木の枝から飛び降りた。


真下で月詠に弓矢を構えていた男を、飛び降りる勢いのまま斬りつけて、二人のそばへ走る。


そして月詠に刀を振り上げた男の懐に飛び込み喉を搔き切ると、男を蹴り倒し、そのすぐ後ろにいた男に斬りかかる。



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