届屋ぎんかの怪異譚
「道を作ります! 俺の後について来てください!」
襲いかかってきた男の刀を太刀で受け、少年は叫んだ。
男の膝を蹴り、よろめいたところを狙って喉を斬るなり、少年は走りだした。
二人がついて来ているのを確認しながら、暗い森の中を迷いなく進む。
「玉響殿を頼りましょう。あの方は退治屋として武術の腕も一流な上に、妖術の類も得意と聞きます。うまくお二人をかくまってくれるでしょう」
小さく言って振り向くと、山吹が不安そうな面持ちで頷いた。
それからは三人とも息を殺して、できるだけ音を立てないように歩いた。
時折聞こえる風に木の葉の揺れる音に怯えながら、暗い森を進む。
「水の気配がする」
もうどれほど歩いたかわからなくなってきた頃、ふいに、月詠が言った。
「この先に小川があります。その小川を超えたらすぐに街に出られる。そうすれば玉響殿の家はすぐそこです」
あと少しですよ、と少年が言うと、気が緩んだのか、背後で山吹が息を吐く音がした。
吐息は静かな森に密やかに溶ける。
――悲劇はその一瞬の隙をついてやってきた。